この世の中の混乱を知ってか知らずか、ボブディランが久々のオリジナル曲を含むアルバムをリリースした。
僕にとってはFalse ProphetやGood bye Jimmy Reedといったブルース的な曲が印象的なアルバムだった。シンプルなブルース曲としても渋くたまらないグルーブの曲であるが、そこにボブディランの語りっぽいボーカルを合わせることで、ありそうでなかった、新しいブルースを創造している。
ストーンズも久々のオリジナル曲を出したわけだが、こちらの曲名はLiving in the ghost townというストレートにコロナ禍を意識した曲だった。ボブディランはどうなのだろうか。
僕は聖者に因んだ名前の道に住んでいる
パウダーとペイントを纏った教会の女ら
そこではユダヤ人、カトリック教徒、
そしてムスリムたちがみんな祈っている
僕にはわかる、みんな遠くから来た
プロテスタントだってこと
さよならジミーリード、
ジミーリード、本当に
昔の時代の宗教を僕にください
それが僕が一番欲しいもの
Good Bye Jimmy Reedの一番を軽く和訳してみたのだが、なにか近年の福音派やBLM的なことを意識してそうでしてないような、そんな感じがボブディランである。先行シングルだったMurder Most Foulも激動の60年代を懐かしむような内容で、コロナや米中対立が深まる現代に何か言いたげなようで関係ないような曲だ。フォーク時代のボブディランも、Blowing the windなどの曲が一人歩きし、反戦歌のようになっていたが、ボブディラン自身はそういうつもりで歌っていたわけでもないという。このすれ違い感が僕にとってはボブディランのかっこよさのひとつである。ノーベル賞云々の話もそうだ。
ちなみに、ジミーリードというのはハーモニカの吹き方が特徴的なブルースマンで、ストーンズがカバーしたHonest I Doなどが有名である。多くのブルースマンはセカンドポジションと呼ばれる、「吸う感じ」のハーモニカを拭くのだが、ジミーリードはファーストポジションという「吹く感じ」のハーモニカのスタイルで演奏し、その演奏方法はボブディランにも少なからず影響を与えたのだろう、と思う。ボブディランのブルースへの愛を感じる曲だ。ボブディランはまだまだ完結していないアーティストなんだな、と強く感じた。